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倫理審査が不要な研究とは|要否の判断基準と迷ったときの確認先

倫理審査が不要になるのは、活動が指針でいう「研究」に当たらない場合と、指針が適用範囲から除いている研究(学術的な価値が定まり研究用に広く利用されている公開情報など、指針が挙げる情報だけを使う研究)の場合です。どちらに当たるかの最終判断は、所属機関の倫理審査委員会・研究支援部門が行います。

ご確認ください(確認日:2026年10月11日)

本記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。ご自身の研究が倫理審査の対象かどうかの最終判断は、所属機関の倫理審査委員会・研究支援部門にあります。指針には令和8年8月27日付の一部改正(施行は2026年12月1日)が公表されています。ガイダンスは令和6年4月1日改訂版が掲載されており、改正後の指針に合わせた改訂は「後日掲載」とされています(確認日時点)。本記事が取り上げる「研究」の定義と適用範囲の要点は、令和5年改正の本文と令和8年改正の本文で同じです(条文の表現は整理されています)。どちらの本文が自分の研究に適用されるかは、委員会にご確認ください。

この記事でわかること

  • 倫理審査が不要になる「二つの入口」(「研究」に当たらない/指針の対象としない)
  • 「研究」と、診療・医療の質の確保との違いの考え方
  • 症例報告・診療録の振り返り・匿名化データ・公開データの、迷いやすい場面
  • 12機関の公開資料で、同じ場面がどう書かれていたか(表と図)
  • 審査が不要でも必要なこと、英語論文での書き方

判断に迷うときは、データを集め始める前に委員会へご確認ください。この記事は、指針とガイダンスの原文に加えて、12の大学・病院等の公開資料が同じ場面をどう扱っているかを実際に開いて確認した記録です。

1. 倫理審査が不要になる二つの入口

指針は、人を対象とする生命科学・医学系研究を対象としています。そのため、「不要」かどうかを考えるときは、次の二つの入口を順に見ます。

入口 指針上の位置 当てはまる例(指針・ガイダンスの記載) 注意
A. そもそも「研究」に当たらない 第2⑴(定義)。ガイダンス第2⑴の解説 医療従事者が自ら行った医療の転帰を、以後の医療の参考にするため診療録を見返す/症例検討会・学会・専門誌で個別の症例を報告する(いわゆる症例報告)/自機関の診療実績を集計する/自機関の医療の質の確保のためにデータを集めて検討する 「研究目的でない医療の一環とみなすことができる場合」に限られます
B. 指針の対象としない研究 第3の1のア〜ウ 法令の規定により実施される研究/法令の定める基準の適用範囲に含まれる研究/既に学術的な価値が定まり、研究用として広く利用され、一般に入手可能な情報、個人に関する情報に該当しない既存の情報、既に作成されている匿名加工情報のいずれかだけを用いる研究 ウは「のみ」を用いる場合に限られます。1つでも該当しない情報を混ぜると、この入口は使えません

このほか、人体から分離した微生物やウイルスの分析だけを行い、人の健康に関する事象を研究の対象としない場合は「人を対象とする」研究に当たらず(ガイダンス第2⑴の解説6)、専ら教育目的の実習で、得られたデータなどを教育目的以外に利用しない場合は「研究」に当たらない(同解説11)とされています。

Bのうち法令に基づく研究については、ガイダンスが、臨床研究法の臨床研究実施基準の適用範囲に含まれる研究は原則として指針の対象とならないと述べています。観察研究が臨床研究法の対象になるかどうかは、別の記事で整理しています。

あわせて読みたい:臨床研究法の対象・対象外:観察研究はどうなるか

2. 「研究」と、診療・質改善の違いはどこにあるか

指針は、人を対象として、傷病の成因や病態の理解、予防方法や診断・治療方法の改善・有効性の検証を通じて、国民の健康の保持増進や患者さんの回復・生活の質の向上に資する「知識を得ること」を目的として実施される活動を、研究と定めています(第2⑴)。ポイントは、データの種類ではなく、活動の目的です。

ガイダンスは、傷病の予防・診断・治療を専ら目的とする医療は研究に当たらないとし、次のような場合を、研究に該当しないと判断してよい例として挙げています(第2⑴の解説)。

  • 以後の医療の参考とするため、診療録を見返し、または退院患者をフォローアップして検討する
  • 他の医療従事者への情報共有のため、院内の症例検討会、院外の勉強会や関係学会、医療従事者向けの専門誌などで個別の症例を報告する(いわゆる症例報告)
  • 既存の医学的知見を、患者さんや一般の方に広めるため出版物などに載せる
  • 医療機関として、自らの医療評価のため、一定期間の診療実績(受診者数、処置数、治療成績など)を集計して院内に供覧し、または事業報告などに掲載する
  • 自らの機関で提供される医療の質の確保(標準的な診療が提供されていることの確認、院内感染や医療事故の防止、検査の精度管理など)のため、機関内のデータを集積・検討する

いずれも、結びの文言は「研究目的でない医療の一環とみなすことができる場合には」です。同じ診療録を使っても、仮説を立てて比較し、一般化できる知見として公表することを目的にすれば、研究として扱われることが多いと考えられます(これは編集上の目安であり、機関の判断に代わるものではありません)。ガイダンスも、既存の試料・情報だけを用いる研究も「人を対象とする」研究に当たるとしています(第2⑴の解説)。

判断の主体について、ガイダンスは、ある活動が研究に当たるかどうかは、一義的には活動を実施する法人や機関の責任で判断するものとし、判断が困難な場合には倫理審査委員会の意見を聴くことが推奨される、としています。

要否を考える流れ(3つの質問)

  1. 活動の目的は、「知識を得ること」ですか。自院のケアの改善や院内の質の確認が目的で、医療の一環とみなせるなら、「研究」に当たらない可能性があります(入口A)。
  2. 研究に当たる場合、使う情報は第3の1ウの「のみ」に収まりますか。公開情報、個人に関する情報に該当しない既存の情報、既に作成されている匿名加工情報だけで足りるなら、指針の対象外となる可能性があります(入口B)。
  3. どちらにも収まらなければ、倫理審査委員会に申請します。既存の診療情報だけを使う研究は、同意の代わりにオプトアウトが認められる場合があります。詳しくはオプトアウト同意とは:後ろ向き研究の倫理記載と英語での書き方をご覧ください。

迷ったときは、2または3の前に、所属機関の委員会事務局へ問い合わせてください。

3. 迷いやすい場面

症例報告

上のとおり、ガイダンスは、学会や専門誌などでの個別の症例報告を、研究に当たらないと判断してよい例に挙げています。ただし、次の点にご注意ください。

  • ガイダンスが前提としているのは、医療従事者が自ら行った医療の転帰などを報告する場面です。前提に当たるかどうか分からない場合は、委員会にご確認ください。
  • 多数例を比べて有効性や安全性を評価するなど、研究性があれば別です。たとえば日本臨床内科医会は、会員向けの案内で、9例以下をまとめた研究性のない症例報告は倫理審査が不要としつつ、有効性・安全性の検討や群間比較を述べる演題は審査が必要としています(2021年10月)。この「9例」は同会の取り決めであり、指針の数値ではありません。
  • 学会や雑誌が、倫理審査委員会の承認を求めることがあります。後述の表のとおり、症例報告について、そうした場合の審査手順を定めている機関があります。
  • 患者さんの同意と個人情報の保護は、審査の要否とは別に必要です。ICMJEの勧告は、個人が特定されうる情報を載せるには、科学的に不可欠で、かつ患者さん(または保護者)の書面による同意がある場合に限る、としています。症例報告の書き方は症例報告の書き方:CARE声明の13項目と投稿までの手順をご覧ください。

学会が定める「カテゴリーA」(9例以下の症例報告)

学会の演題登録や投稿では、「9例以下をまとめた研究性のない症例報告」を、倫理審査が不要な区分とする取り決めを置いている例があります。これは各学会が、自らの学会での発表について定めた取り決めであり、倫理指針に書かれている数値ではありません。

  • 日本消化器病学会:「人を対象とした医学研究の日本消化器病学会における発表の倫理規準」は、「倫理審査が不要な研究(カテゴリーA)」の一つに、9例以下をまとめた研究性のない症例報告を挙げています(倫理規準)。同学会の倫理指針Q&Aは、10例以上をまとめた症例報告は症例集積研究とみなされ審査が必要であること、9例以下でも、治療例と非治療例の比較や診療の有効性・安全性の評価など研究性があれば審査が必要であることを述べています。
  • 日本睡眠学会:「(参考)生命科学・医学系研究において倫理審査が不要な研究」(2022年9月30日 Ver.1.2)の「Class 1」は、原則として統計解析や診療範囲外の追加解析を行わず、報告対象数が9例以下であれば、症例報告として倫理審査は必須ではないとしています。ただし、発表者の所属機関が審査を必要と判断した場合は、所属機関の判断が優先されます(資料)。

数字や条件は学会ごとに異なることがあり、論文の投稿先の規程とも別です。発表や投稿の前に、学会・雑誌の規程と、所属機関の判断の両方をご確認ください(2026年10月11日確認)。

診療録を用いた後ろ向き調査

診療録を見返す行為そのものが研究に当たらない場合があることは、上のとおりです。一方、論文にするために仮説を検証する後ろ向き研究は、指針の対象になりうるものです。その場合、既存情報を自機関で使うときの手続(同意の代わりのオプトアウトなど)を、倫理審査委員会の審査を経て決めます。Methodsの書き方は後ろ向き研究の論文の書き方に、手続の詳細はオプトアウト同意の記事にあります。

匿名化したデータ・アンケート

「匿名化したから不要」とは、そうとは限りません。指針が対象から除くのは、「既に作成されている」匿名加工情報や、個人に関する情報に該当しない既存の情報などです。ガイダンスは、「個人に関する情報」には、個人情報のほか仮名加工情報、匿名加工情報、個人関連情報などが含まれ、無記名アンケートで得た情報も該当するとしています。したがって、無記名アンケートで得た情報は「個人に関する情報」に当たるため、第3の1ウ②(個人に関する情報に該当しない既存の情報)には当てはまりません。また、「匿名加工情報」は個人情報保護法上の定義があり、研究者が氏名を消して作った「匿名化データ」とは別です。「個人に関する情報に該当しない」例は、特定の個人との対応関係が排除されている統計情報などです。ご自身が診療録などから匿名化して作るデータが、どちらに当たるかは、委員会にご確認ください。

公開データ

指針が対象から除く公開情報は、「既に学術的な価値が定まり」「研究用として広く利用され」「一般に入手可能」の三つを満たすものです。ガイダンスは、「広く利用され」の例として、米国の疾病対策センター(CDC)が研究用にウェブ上でダウンロードできる形で公開している情報、査読された論文に掲載されている情報、論文の著者らが公開している原資料で研究用に広く利用できるものを挙げています。「公開されている」だけでこの三つを満たすとは限りません。また、データごとの利用条件は別に確認が必要です。

他機関から提供を受けるデータ

他の機関から既存の試料・情報の提供を受けて研究をするときは、提供元でとられた手続の内容などを確認する義務が研究者に定められています(令和8年改正の本文では第8の2⑸、令和5年改正の本文では第8の1⑸)。審査が不要になるかどうかの前に、提供元の手続を確認してください。

4. 実例:12機関の公開資料で、同じ場面はどう書かれていたか

指針の文言だけでは、実際の運用が分かりにくいため、症例報告・診療録の振り返り・公開データなどの扱いについて、大学・病院等の公開資料を検索して見つけ、12機関・計14件を実際に開いて確認しました(いずれも2026年10月11日閲覧。信州大学のみ3件)。全国の機関を網羅したものではなく、資料の種類(手順書、申請書、オプトアウトの書式例)も異なります。割合や優劣を示す調査ではなく、書き方の例として読んでください。

日本の12機関の公開ページ(症例報告の手順書、申請書、オプトアウト書式例など)に、症例報告・診療録の振り返り・公開データなどの扱いが書かれていたかを示す一覧図。塗りは記載を確認できたページ。
図1. 12機関の公開資料で確認できた記載(タップで拡大)
読み方:塗りは「その資料に記載を確認できた」、白は「その資料には書かれていない」です。書かれていないことは、その機関が反対の扱いをしているという意味ではありません。症例報告の手順書、申請書様式、オプトアウトの書式例など資料の種類が違うため、機関どうしの優劣や割合の比較には使えません。最終判断は各機関の倫理審査委員会が行います。
出典:各機関の公開資料14件(12機関。URLは本文の表。2026年10月11日閲覧)。指針・ガイダンス:厚生労働省「研究に関する指針について」。検索で見つけた資料を実際に開いて確認した12機関で、全国の機関を代表するものではありません。作図:Editverse Japan(R 4.3.3)。
機関 開いた資料(日付は資料に記載のもの) 確認できた要点
信州大学医学部 症例報告の倫理審査に関する手順書(令和7年11月4日制定)、倫理審査申請の手順(Ver.20260729)、オプトアウト文書の自動公開の通知(令和8年4月1日) 症例報告は指針の対象外で、倫理審査は基本的には不要。学会・論文発表で審査が必要とされる場合の迅速審査の手続を用意。審査を経た研究のオプトアウト文書を、申請システムから学部ホームページへ自動公開する運用
岐阜大学医学系研究科 症例報告の倫理審査に関する手順書(令和5年6月21日実施) 学会・学術誌から承認を求められた場合や、審査を希望する場合に、症例報告の審査を受けることができる(迅速審査)
浜松医科大学 症例報告の倫理審査に係る標準業務手順書(第1版、令和6年1月22日) 同様に、承認を求められた場合や希望する場合の手続。申請書で、指針上の「研究」に該当しないことの確認を求め、研究性のある内容は研究として申請が必要とする
獨協医科大学日光医療センター 症例報告の倫理審査に関する手順書(第1.0版、2024年6月14日) 症例報告が指針の適用範囲外となる判断フローと、ガイダンスの該当箇所を掲載。審査が不要な場合も、症例報告を病院長に届け出ることができる
国立病院機構 高崎総合医療センター 学会報告・論文化(症例報告)の取り扱いについて(資料内に日付と施設名の記載なし。ファイル名は20220224) 症例報告は「研究」に該当しないため、倫理審査は必ずしも義務づけられていない。可能な限り同意を取得するよう依頼。提出先から審査を求められた場合は迅速審査(目安は約2週間と記載)
国立病院機構 相模原病院 倫理審査申請に関するマニュアル(ver.20221205) 「迷ったら申請」が大原則とし、審査が不要な例を7項目で列挙(研究目的以外の医療行為、通常の医療、法令による研究、一般に入手可能な情報のみ、統計情報、既に作成されている匿名加工情報のみ、個人が特定されない症例報告)
杏林大学医学部 倫理委員会に申請する必要がない研究(平成30年11月19日) 症例報告、診療録の振り返りなどを申請不要として列挙。判断がつかない場合は申請書の提出を求める。令和3年の現行指針より前の指針名・表現で書かれている
岡山大学(自然系研究科) 確認用フロー「倫理審査委員会の審査を要する研究」(日付の記載なし) 公的に入手可能な既存のもので、いかなる手段でも被験者を特定できない場合は、申請の必要はない。医療系の研究は別の委員会が担当するため、あくまで一研究科の例
摂南大学 人を対象とする研究倫理審査申請を必要としない研究に関する申し合わせ(2021年3月2日制定、同年11月16日改正) 指針第3の1で「対象としない」研究に当たる場合を申請不要とし、例として、法令による研究と、既に匿名化されている情報だけを用いる研究を挙げる
新潟大学 倫理審査委員会 オプトアウト書式(申請番号2025-0252の例) 診療録を用いる後ろ向き研究のオプトアウト文書の実例。対象者と期間、概要、目的、研究期間、情報の利用方法、利用する情報の項目、利用する者の範囲、管理責任者、連絡先を記載
三重大学医学部附属病院 オプトアウト文書記載例(Ver 2.0、2023年7月1日作成) 臨床研究に関する情報公開文書の記載例。研究への使用を希望しない場合の申出先、倫理審査委員会の審査と病院長の許可を受けた旨などを記載する構成
成田赤十字病院 倫理委員会審査申請書(術式・その他)様式1-4(Ver.1.2、2020年7月1日) 申請区分に「診療記録等を後ろ向きに専ら統計処理等による研究」があり、同意の取得方法の選択肢に「研究対象者等が拒否できる機会を保障する(オプトアウト)」がある

この表から言えること(5つの項目の集計は図1のとおりです)。

  • 症例報告:12機関のうち6機関が、研究に当たらない旨、または審査が原則不要である旨を述べ、5機関が、学会や雑誌から求められたとき・希望したときの審査手続を用意していました。「審査は原則不要だが、投稿先が求めれば手続がある」という二段構えの機関が複数あります。
  • 公開データ・匿名化情報:5機関が申請不要の場合を述べていました。そのうち杏林大学(2018年)、摂南大学(2021年)、獨協医科大学日光医療センター(2024年)の3機関は、「既に匿名化されている情報(対応表が作成されていないもの)」という、現行指針の第3の1ウ(個人に関する情報に該当しない既存の情報、既に作成されている匿名加工情報)とは異なる言い回しを使っていました。言い回しが違う以上、自分のデータが該当するかどうかは、委員会に確認するのが確実です。
  • 機関の姿勢:相模原病院のマニュアルのように、「ほとんどの医学系研究が倫理審査を要する」「迷ったら申請」を大原則とする機関もあります。

集計の再現(R)

図1は、上の12機関の資料を筆者が読んで、各項目について「記載を確認できた(1)/できなかった(0)」を付けた集計です(この話題には患者データのような既存のデータセットがないため、資料の記載を読み取って集計しました)。境界の判断には主観が入ります。たとえば浜松医科大学は、申請書の確認欄で「研究に該当しない」ことの確認を求めているため、「研究に当たらない旨の明記」に数えました。Rのコードと出力は次のとおりです。

m <- rbind(  # 列:症例報告で研究非該当/症例報告の審査手続/後ろ向き研究のオプトアウト書式/診療録の振り返りは申請不要/公開・匿名化情報のみは申請不要
  信州=c(1,1,1,0,0), 岐阜=c(0,1,0,0,0), 浜松=c(1,1,0,0,0), 獨協=c(1,1,0,1,1),
  高崎=c(1,1,0,1,0), 相模原=c(1,0,0,1,1), 杏林=c(1,0,0,1,1), 岡山=c(0,0,0,0,1),
  摂南=c(0,0,0,0,1), 新潟=c(0,0,1,0,0), 三重=c(0,0,1,0,0), 成田=c(0,0,1,0,0))
stopifnot(nrow(m) == 12)
colSums(m)
# [1] 6 5 4 4 5

空白は「その資料には書かれていない」ことを示すだけで、その機関が反対の扱いをしているという意味ではありません。たとえば、ここで取り上げた手順書は症例報告の手順を定める文書で、公開データの扱いを書く場所ではありません。

5. 審査が不要でも、必要なこと

  • 個人情報の保護:審査が不要な場合でも、個人が特定されない形で扱ってください。
  • 患者さんの同意(症例報告):個人が特定されうる情報や画像を載せるときは、上のICMJEの考え方に沿って、書面での同意を取り、論文に同意を得たことを記載します。
  • 機関の手続:審査は不要でも、届出や所属長の確認が必要な機関があります(獨協医科大学日光医療センターの例)。
  • 判断の記録:要否について委員会や事務局に確認した場合は、回答をメールなどの文書で残しておくと、投稿後に編集部から尋ねられたときに説明しやすくなります(編集上の助言)。

6. 英語論文での扱い:審査が不要でも「どう判断されたか」を書く

ICMJEの勧告は、著者は独立した審査機関(倫理委員会、IRBなど)の承認を求め、編集者から求められたときに文書を示せるようにしておくこと、また、審査機関の承認があっても、編集者が研究の実施が適切だったかを独自に判断しうることを述べています。つまり、投稿先から「倫理審査の承認、または不要であることの根拠」を尋ねられる可能性があります。倫理審査が不要と判断された研究では、その旨と根拠を、簡潔に書いておくと誤解を避けられます(編集上の助言)。

英語の記載の雛形(ご自身の状況に合わせて書き換えてください)

(公開データなど、委員会が指針の対象外と判断した場合)
The institutional ethics committee of [institution] confirmed that this analysis of [name of the publicly available dataset] was outside the scope of the Ethical Guidelines for Medical and Biological Research Involving Human Subjects and did not require ethical review ([reference number / date of confirmation, if issued]).

(症例報告で、機関の手順に従い審査を要しなかった場合)
In accordance with the institutional procedure of [institution], this single case report did not require ethics committee review. Written informed consent for publication of the case details was obtained from the patient.

これらは書き方の例であり、事実と異なる内容を書かないでください。委員会が出した判断の文言がある場合は、そちらを優先します。投稿先に、独自の書式がある場合も、それに従ってください。

審査を受けた研究の倫理記載(承認機関、承認番号、同意の取得方法など)の一般的な書き方と、オプトアウトを用いた研究の英語の書き方は、次の記事にまとめています。

あわせて読みたい:倫理承認とインフォームド・コンセントの正しい報告方法/オプトアウト同意とは:後ろ向き研究の倫理記載と英語での書き方

まとめ

倫理審査が不要になるのは、活動が指針でいう「研究」に当たらない場合と、指針が対象としない情報・法令に基づく研究の場合です。症例報告や診療録の振り返りは、研究に当たらないと判断してよい例がガイダンスに挙げられていますが、論文化のために仮説を検証する研究は別に考える必要があります。匿名化データや公開データは、指針の条件に当てはまるかどうかを、委員会に確認してください。12機関の公開資料を見ても、書き方は機関ごとに違います。最終判断は所属機関の倫理審査委員会・研究支援部門にあり、迷ったときは、始める前に確認することが、いちばん安全で、あとの手戻りも少なくなります。

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よくある質問

倫理審査が不要な研究にはどのようなものがありますか。

大きく二つあります。指針でいう「研究」に当たらない活動(診療の一環として診療録を見返す、症例を学会や専門誌で報告する、自機関の診療実績を集計する、など)と、指針が適用範囲から除いている研究(法令の規定で実施される研究、学術的な価値が定まり研究用に広く利用されている公開情報や、既に作成されている匿名加工情報などだけを用いる研究)です。どちらに当たるかは、所属機関の倫理審査委員会などが判断します。

症例報告は倫理審査が不要ですか。

指針のガイダンスは、学会や専門誌などで個別の症例を報告することを、研究目的でない医療の一環として、研究に当たらないと判断してよい例に挙げています。ただし、多数例を比べて有効性を評価するなど研究性がある場合は別で、投稿先の学会や雑誌が倫理審査の承認を求めることもあります。手順は機関ごとに異なりますので、所属機関にご確認ください。また、患者さんの同意と個人情報の保護は、審査の要否とは別に必要です。

公開されているデータだけを解析する場合も、倫理審査は不要ですか。

指針は、既に学術的な価値が定まり、研究用として広く利用され、一般に入手可能な情報だけを用いる研究を、適用範囲から除いています。ガイダンスは、研究用にウェブ上で公開されている情報や、査読された論文に掲載された情報などを例に挙げています。ただし、公開されているというだけで当てはまるとは限らず、データの利用条件も別に確認が必要です。ご自身のデータが当てはまるかどうかは、委員会にご確認ください。

匿名化したデータなら、倫理審査は不要になりますか。

匿名化しただけで自動的に不要になるわけではありません。指針が適用範囲から除くのは、既に作成されている匿名加工情報や、個人に関する情報に該当しない既存の情報などに限られます。ご自身が診療録などから匿名化して作るデータは、研究として審査の対象になり、オプトアウトなどの手続が必要になる場合があります。どう扱われるかは、委員会にご確認ください。

倫理審査が不要と判断された研究を英語論文にするとき、何を書けばよいですか。

投稿先の規定に従い、倫理審査を要しないと判断された旨と、その根拠(どの機関の、どの委員会や部署が判断したか)を簡潔に書くのが無難です(編集上の助言)。ICMJEの勧告は、著者が独立した審査機関の承認を求め、編集者から求められたら文書を示せるようにすること、承認があっても編集者が独自に判断しうることを述べています。機関から判断を文書(メールなど)でもらっておくと、投稿後の確認に答えやすくなります。

後ろ向き研究は倫理審査が必要ですか。

診療録などを使い、仮説を検証して論文にする後ろ向き研究は、指針でいう「研究」に当たることが多く(編集上の目安です)、倫理審査委員会の審査と研究機関の長の許可を受けるのが一般的です。診療の一環として診療録を見返すだけの場合など、研究に当たらないと判断してよい例もガイダンスに挙げられていますが、どちらに当たるかは所属機関が判断します。審査を受けた後ろ向き研究では、既存の情報を使う場合に、一定の条件のもとで、同意の代わりにオプトアウト(通知と拒否の機会の保障)が認められます。くわしくはオプトアウト同意とは:後ろ向き研究の倫理記載と英語での書き方をご覧ください。

審査が必要と分かったときの、申請書類づくりをお手伝いします

倫理審査が必要と判断された場合に、研究計画書や説明文書などの申請書類(日英両語)の作成を支援します。要否の判断そのものは所属機関の倫理審査委員会が行いますので、当社が「不要」と判断することはできません。審査の結果をお約束するものではなく、研究内容と著者としての責任は研究者ご自身にあります。

申請書作成を見る →

参考文献・公式情報(確認日:2026年10月11日)

以下は、2026年10月11日に実際に開いたページです。指針・ガイダンスの引用は短い語句にとどめ、内容は言い換えています。

  1. 厚生労働省「研究に関する指針について」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html
  2. 文部科学省「人を対象とする生命科学・医学系研究」(ガイダンスの改訂は「後日掲載」と記載):https://www.mext.go.jp/a_menu/lifescience/bioethics/seimeikagaku_igaku.html
  3. 人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(令和8年8月27日一部改正、2026年12月1日施行。第2⑴、第3の1、第6の2、第8の2⑸):https://www.mhlw.go.jp/content/001743409.pdf
  4. 同(令和5年3月27日一部改正の本文):https://www.mhlw.go.jp/content/001077424.pdf
  5. 施行通知(令和8年8月27日。施行日、経過措置、ガイダンス改訂の予定):https://www.mhlw.go.jp/content/001743404.pdf
  6. 同ガイダンス(令和6年4月1日一部改訂。第2⑴の解説5・8・12、第3の1の解説4〜9):https://www.mhlw.go.jp/content/001237478.pdf
  7. 英語版(参考訳。Ethical Guidelines for Medical and Biological Research Involving Human Subjects、令和5年改正までを反映。法的効力を持つのは日本語の原文のみと記載):https://www.mhlw.go.jp/content/001457376.pdf
  8. ICMJE. Protection of Research Participants(推奨事項は2026年1月更新と記載):icmje.org
  9. 日本臨床内科医会倫理審査委員会「日本臨床内科医学会での演題応募における倫理審査」(2021年10月):https://www.japha.jp/doc/shinsa202111.pdf
  10. 日本消化器病学会「人を対象とした医学研究の日本消化器病学会における発表の倫理規準」:https://jsge.or.jp/wp-content/uploads/2024/10/rinri2024_01.pdf、同「倫理指針Q&A」(日付の記載なし):https://www.jsge.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/c4344e61507bed576ccc3ba4cb03c03d.pdf
  11. 日本睡眠学会「(参考)生命科学・医学系研究において倫理審査が不要な研究」(2022年9月30日 Ver.1.2):https://jssr.jp/files/download/rinrishinsa_huyou%28Ver.1.2%29.pdf
  12. 第4節の表の各機関の資料(表中のリンクを参照)。信州大学(3件)、岐阜大学、浜松医科大学、獨協医科大学日光医療センター、国立病院機構 高崎・相模原病院、杏林大学医学部、岡山大学、摂南大学、新潟大学、三重大学医学部附属病院、成田赤十字病院。
  13. 集計と図:Rバージョン4.3.3(2024-02-29)、ggplot2、ragg。図1は上記12機関の資料を筆者が読んで付けた記号の集計で、測定データではありません。

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