学位論文の剽窃チェックについて、大学10校の公開ページの記載を比較したマトリクス図。ツールはiThenticateが9校、Turnitinが1校。実施時期の記載は7校、数値基準の記載は1校(15%未満)、除外設定の記載は3校。

学位論文の剽窃チェック|大学10校の運用例と執筆者の注意点

学位論文の剽窃チェックに、全国共通のルールはありません。今回、大学10校の公開ページを開いて確認したところ、ツール名を挙げていたのはiThenticateが9校、Turnitinが1校でした。実施時期(提出前・審査申請時・審査時)と実施者(指導教員・主査・学生本人)は大学や研究科によって異なり、数値基準を明記していたのは10校中1校(類似率15%未満)だけでした。文部科学省のガイドラインは、他の研究者のアイディア・分析方法・データ・研究結果・論文・用語を、その研究者の了解や適切な表示なく流用することを盗用と定義していますが、学位論文への具体的な適用は各大学が定めます。執筆者がまずすべきことは、ご自身の研究科の案内を読み、誰がいつチェックするのかを指導教員に確認し、自分の既発表論文からの再利用を明示することです。

本記事が扱うのは、学位論文の剽窃チェックの「制度と手続き」です。類似度(Similarity Score)の読み方はiThenticateの類似度の見方を、盗用の定義と予防は盗用(プラギアリズム)を防ぐ方法と剽窃の種類と回避方法をご覧ください。なお、Editverse Japanは類似度チェックを実施しておらず、特定の大学の形式要件を満たすことを保証するものでもありません。

1. 文部科学省ガイドラインが定めていること、定めていないこと

以下は、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定)の本文を2026年10月9日に開いて確認した内容です(文部科学省の該当ページ、本文PDF)。

  • 研究活動における不正行為として、捏造・改ざん・盗用が挙げられています。このほか、既発表または投稿中の論文と本質的に同じ論文を投稿する二重投稿や、不適切なオーサーシップも不正行為として認識されるようになってきたと述べ、その具体的な範囲は学協会の規程や学術誌の投稿規程で明確にすることが望まれるとしています。
  • 第3節の「特定不正行為」は、競争的資金などの配分機関が対象とする捏造・改ざん・盗用で、故意または研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによるものとされています。
  • 盗用は「他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること」と定義されています。
  • 大学には、大学院生を含む学生への研究倫理教育を推進することが求められています。また、研究機関の規程づくりは文部科学省の予算による研究に限らず、研究費の種類を問わず対象にすべきだとも述べています。

一方、このガイドラインは、使用するソフトウェア、類似度のしきい値、学位論文の提出手続きを定めてはいません。それらは各大学の規程や研究科の案内で決まります。

学位論文が公開される点も押さえておきましょう。学位規則(e-Gov法令検索、2026年10月9日閲覧、2022年10月1日施行の版)の第9条は、博士の学位を授与された者に、授与の日から1年以内に論文の全文を公表することを求めています(授与前に既に公表している場合を除く)。第8条は、大学が論文の内容の要旨と審査結果の要旨を3か月以内にインターネットで公表することを定めています。後述の東北大学のページは、この規則の改正を剽窃チェック導入の背景として挙げ、九州大学のページは学術情報リポジトリでの公表に触れています。

2. 公開ページで見る大学10校の運用例

以下の表は、各大学の公開ページを2026年10月9日に開いて確認した内容です。10校は「ページを開いて確認できた例」であり、全大学を代表するものではありません。ルールは大学・研究科ごとに異なります。「記載なし」は、そのページに書かれていないという意味で、ルールがないという意味ではありません。

学位論文の剽窃チェックについて、大学10校の公開ページの記載を比較したマトリクス図。ツールはiThenticateが9校、Turnitinが1校。実施時期の記載は10校中7校、数値基準の記載は1校(15%未満)、除外設定の記載は3校
図1. 大学10校の公開ページの記載(緑=記載あり、灰=記載なし)。*大阪大学は2014年10月1日付の通知、**明治大学はネットワークデザイン専攻の2021年11月付の通知。出典:各大学の公開ページ(2026年10月9日閲覧)、Rで作図 © editverse.com

読み方:緑のマスは「そのページに書いてある」項目です。ツール名は10校すべてにありますが、数値基準が緑なのは名古屋大学国際開発研究科の1校だけで、ほかは大学ごとに書かれている項目が違います。

大学・研究科(出典ページ) ツール 実施者 時期 数値基準・除外設定
京都大学(全学) iThenticate 教員・研究者(大学院生は利用対象外)。指導する大学院生の学位論文の確認も利用範囲に含む 記載なし 記載なし。類似性が高いことが直ちに盗用を示すものではないと注記
東北大学(全学)(英語ページ) iThenticate 指導教員 ワーキンググループの提言は、提出前に草稿を指導教員が確認すること 記載なし
東京大学 人文社会系研究科(博士論文の提出) iThenticate 「指導教員の指示に従い」 論文提出前 記載なし
大阪大学 医学系研究科(保健学専攻を除く。2014年10月1日付の通知) iThenticate 指導教員(課程博士の論文を投稿する際)、主査(研究発表会の申請時)、論文審査委員会(本審査の申請時) 投稿時、研究発表会の申請時、本審査の申請時 記載なし
九州大学(全学) iThenticate 公開ページに記載なし 学位論文審査で点検を義務づけ 記載なし
名古屋大学 国際開発研究科 Turnitin 学生本人 提出前 類似率15%未満。表紙・目次・参考文献リスト等を除き、論文本体のみを提出
早稲田大学 大学院文学研究科(通知) iThenticate 主任審査員(予定者) 博士学位請求論文の受理申請時 数値基準の記載なし。結果は個別に精査するよう求めている
近畿大学大学院 iThenticate 利用資格は指導教員、審査委員会の主査、関連論文の責任著者 記載なし(令和3年4月1日以降に審査予定の博士論文などが対象) 記載なし
明治大学 先端数理科学研究科(ネットワークデザイン専攻、2021年11月付) iThenticate 指導教員 学位請求時。審査後に論文を修正した場合も再実施 数値基準の記載なし。すべての項目を除外せずに実施し、PDFで保存
島根大学 医学系研究科(届出書の様式) iThenticate 様式に実施者の記載なし(学位申請者と指導教員が確認欄に署名) 記載なし 数値基準の記載なし。引用文献・参考文献・材料と方法・2%以下のソースを除外して実施

早稲田大学の通知PDFはサーバーが直接のダウンロードを拒否したため(403)、内容の確認はWebFetchによる読み取りで行いました。ほかの9校はページまたはPDF本文を直接読んで確認しています。

3. 表から読み取れること

  • ツール。10校中9校がiThenticate、1校がTurnitinを挙げています。どちらも全国共通の指定ではありません。
  • 実施者。指導教員や審査委員が行う例が目立ちます。京都大学のページは、利用できる者を教員・研究者とし、大学院生を含まないと明記しています。大阪大学医学系研究科と明治大学の通知も、実施者を指導教員や審査側としています。これに対し、名古屋大学国際開発研究科では学生本人がTurnitinで確認します。まず指導教員に、誰が実施するのかを尋ねてください。
  • 数値。数値基準を明記していたのは名古屋大学国際開発研究科(15%未満)だけです。早稲田大学の通知は、剽窃ではなくても類似度が高く出ることがあるため、結果を個別に精査する必要があると述べています。他大学やジャーナルの数値を「安全な値」とみなさないでください。
  • 設定が数値を変えます。明治大学のネットワークデザイン専攻は「すべての項目を除外しない」実施を求め、島根大学の様式は4項目(引用文献・参考文献・材料と方法・2%以下のソース)を除外し、名古屋大学国際開発研究科は表紙・目次・参考文献リスト等を除いた本文のみを提出させています。同じ論文でも、この3つの設定では異なる類似率になりえます。数値は、使った設定とセットで初めて意味を持ちます。計算方法はこちらの記事をご覧ください。
  • ツールが見られる範囲。東北大学と近畿大学のページは、ツールが参照できるのはインターネット上で公開された文献とツール自身のデータベースに限られること、適法な引用と剽窃を機械的には区別できないことを注記しています。最終的な判断は人が行います。

4. 学位論文の執筆者がすべきこと|Editverseの編集上の助言

以下はEditverse Japanの編集上の助言であり、文部科学省や各大学の規則ではありません。必ずご自身の研究科の案内と指導教員の指示を優先してください。

  1. 案内を探す。研究科の学位論文提出のページで「剽窃」「類似度」「iThenticate」「Turnitin」を探します。誰が実施するのか、いつか、報告書や署名入りの届出書を出すのか、修正後に再実施するのか(明治大学の通知は再実施を求めています)を控えておきましょう。
  2. 自分の既発表論文からの再利用を明示する。学位論文には、自分の発表済み論文を基にした章がよくあります。早稲田大学の通知は、すでにインターネット公開されている著者自身の論文との一致を、類似度が高くなっても剽窃とは限らない例として挙げています。明治大学の通知は、業績書に載せた査読付き論文もチェック対象としています。どの章がどの論文に由来するかを示して引用し、出版社の再利用規定や共著者の了解も確認してください。ジャーナル論文での再利用の考え方は自己剽窃とテキストリサイクリングで解説しています。
  3. 言い換えで数値だけを下げない。表現を変えても、文章の出どころは変わりません。引用符と出典を正しく付け、出典を理解したうえで言い換えます。
  4. 日本語の学位論文の章を、後で英語論文にするとき。二次出版の条件が関わります。二次出版とは?日本語論文を英語で公表する条件を確認してください。
  5. 指摘を受けたら。指摘は、人が読んで確かめるための手がかりです。指導教員と一緒に一致箇所の出典を開き、引用と出典表示を直し、レポートを保管します。
  6. 外部の支援を使うとき。英文校正や書式の整備が認められる場面は多くありますが、学位論文そのものと解析はご自身の成果です。外部の支援を使う前に、研究科の規則と指導教員の了承を確認してください。

5. 既発表論文と自己剽窃|実証研究が示すこと

再利用はどのくらい一般的なのでしょうか。Anson と Moskovitz(2021)[文献1]は、80件の研究プロジェクトから集めたSTEM分野の公表論文400本をコンピュータで解析しました。1論文あたり平均で約3文が再利用されており、再利用の多い研究グループ(約15%)もありました。また、再利用した文章を字句どおりにではなく、表面的に手直ししていた例のほうが多いと報告しています。Hall、Moskovitz、Pemberton(2018)[文献2]は、16分野86誌の編集者・編集委員300人超へのアンケートで、大多数が「状況によっては許容される」と考える一方、いつ許容されるかについて明確な合意はないと報告しました。

これらはジャーナル論文の研究で、学位論文を対象としたものではありません。それでも、ルールがジャーナルや大学ごとに異なること、そして再利用の開示が大切であることを示しています。

6. 本記事のデータとR

この記事には統計検定はありません。使ったデータは、上の10校の記載を手入力した表です(作成日:2026年10月9日)。次のRコードで、図1の件数を集計しました。

# d: 10校の記載を手入力した表(列:tool, who_ja, when_ja, thr_ja, exc_ja)
nrow(d)                      # 10
table(d$tool)                # iThenticate 9, Turnitin 1
sum(d$when_ja != "記載なし")  # 実施時期の記載あり: 7
sum(d$who_ja  != "記載なし")  # 実施者の記載あり: 8
sum(d$thr_ja  != "記載なし")  # 数値基準の記載あり: 1
sum(d$exc_ja  != "記載なし")  # 除外設定の記載あり: 3

出力は、10校、iThenticate 9校・Turnitin 1校、実施時期7校、実施者8校、数値基準1校、除外設定3校でした。これらの数は、確認した10ページの記載を数えただけで、日本の大学全体の割合を示すものではありません。

学位論文の英文校正をご検討の方へ

学位論文の英語の表現・文体・書式を整える編集サポートです。外部の支援を使えるかどうかは研究科の規則と指導教員の了承によりますので、事前にご確認ください。詳しくは学位論文英文校正と、サービス全体の学位論文サポートのページをご覧ください。

まとめ

  • 学位論文の剽窃チェックは大学・研究科ごとに異なり、公開ページ10校の例でも、時期・実施者・数値基準の記載はそろっていません。
  • 文部科学省のガイドラインは盗用を定義していますが、ツールやしきい値は定めていません。
  • 他大学の類似率を目安にせず、ご自身の研究科の案内と指導教員の指示に従ってください。数値は設定とセットで読む必要があります。
  • 自分の既発表論文を使うときは、引用して由来を示し、出版社と共著者にも確認してください。
  • 指摘は結論ではなく、人が確認するきっかけです。

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よくある質問

Q1. すべての大学で、学位論文の類似度チェックは必須ですか。

今回確認した10校の例でも扱いは異なり、全大学が必須とは確認できていません。大学・研究科ごとに規則が違うため、ご自身の研究科の案内をご確認ください。

Q2. 大学はどのソフトを使っていますか。

今回確認した10校のうち、9校がiThenticate、1校がTurnitinを挙げていました。全国共通の指定ではありません。

Q3. 類似率は何%以下なら大丈夫ですか。

共通の基準はありません。10校のうち数値を明記していたのは1校(15%未満)で、ほかは数値の記載がありませんでした。設定によっても数値は変わります。

Q4. 自分の発表済み論文を学位論文に使ってもよいですか。

多くの場合は可能ですが、引用して由来を示し、出版社の再利用規定と大学・研究科の規則に従う必要があります。共著者の了解や指導教員への相談も忘れないでください。

Q5. Editverse Japanは類似度チェックを行いますか。

いいえ。当社は類似度チェックを実施しておらず、特定の大学の形式要件を満たすことも保証していません。

参考資料

  • 文部科学省「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定). https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fusei/index.htm(2026年10月9日閲覧)
  • 学位規則(昭和28年文部省令第9号). e-Gov法令検索(2026年10月9日閲覧)
  • 大学の公開ページ:表中のリンク先(いずれも2026年10月9日閲覧)。規則は更新されることがあるため、必ず最新の案内をご確認ください。
  • [文献1]Anson IG, Moskovitz C. Text recycling in STEM: a text-analytic study of recently published research articles. Accountability in Research. 2021;28(6):349-371. PMID 33180569. doi:10.1080/08989621.2020.1850284
  • [文献2]Hall S, Moskovitz C, Pemberton MA. Attitudes toward text recycling in academic writing across disciplines. Accountability in Research. 2018;25(3):142-169. PMID 29394122. doi:10.1080/08989621.2018.1434622

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