3つの研究科の修士論文分量規定から算出した「日本語字数÷英語語数」。神戸大学大学院経済学研究科は約2.1(範囲1.8〜2.3)、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科は約2.8、長崎大学大学院経済学研究科は約3.3

修士論文を英語で書く|構成・語数の目安と日本語論文との違い

修士論文は英語で「master’s thesis」です。日本の多くの大学院では修士論文を日本語・英語のどちらでも書けますが、分量・要旨・書式のルールは国ではなく各研究科が定めているため、最初に確認すべきはご自身の研究科の作成要領です。日本語と英語の両方で分量を定めている3つの研究科の規定を比べると、日本語の字数と英語の語数の「換算比」は英語1語あたり約2.1〜3.3字と幅があり、日本語の分量規定を1つの固定値で英語に換算することはできません。本記事では、規定の確かめ方、英語で書く修士論文の一般的な構成、そして言語以外に何が変わるのかを解説します。

修士論文は英語で何と言う?(用語の早見表)

修士論文=master’s thesisです。日本の大学院自身の英語テンプレートでもこの表現が使われています。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科(慶應SFC)の英語の表紙は「Master’s Thesis (Academic Year 2025)」、同志社大学の表紙見本は「A Thesis Submitted to The Faculty of Letters, Graduate School, Doshisha University, In Partial Fulfillment of the Requirements for the Degree of Master of Arts」となっています。

thesisとdissertationの違い:アメリカ英語では一般に「thesis」が修士論文、「dissertation」が博士論文を指します。イギリス英語では逆になることが多く、授業型修士課程の論文を「dissertation」、博士論文を「thesis」と呼びます。日本の大学院に提出する場合は、ご自身の研究科の作成要領や表紙テンプレートで使われている語に合わせてください。

日本語 一般的な英語 補足
修士論文 master’s thesis 慶應SFCのテンプレートでは「Master’s Thesis」
博士論文 doctoral dissertation / PhD thesis 米国式・英国式で異なる
卒業論文 undergraduate (bachelor’s) thesis ―
要旨 abstract 神戸大学経済学研究科では、英語で書く場合は「Abstract」とする
梗概 summary 同志社大学(英文学・英語学専攻)では、英語の論文でも日本語の梗概が必要
謝辞 acknowledgements 置く位置が日本語の論文と異なる(第3節)
参考文献 references / bibliography / works cited 同志社大学の目次見本では「Works Cited」
指導教員 supervisor(英)/ advisor(米) ―
口述試験 oral examination / thesis defense ―

1. まず確認:ご自身の研究科は何を認めているか

英語で書く修士論文について、全国共通のルールはありません。以下の例は、各研究科が公開している規定から直接引用したものです(2026年10月1日確認)。ランキングでも「日本の一般的な慣行」の代表例でもなく、規定がどれほど異なるか、そしてご自身の作成要領で何を確認すべきかを示すためのものです。

研究科(資料) 使用言語 本文の分量 要旨の規定
神戸大学大学院経済学研究科(修士論文の作成要領、2026年度9月修了予定者用) 日本語または英語(KIMAPコースは英語で作成) 18ページ以上(表紙・要旨・目次は含まない)。日本語:1ページ約38字×30行(約1,000〜1,200字)。英語:1ページ約40行・シングルスペース(約520〜550語) 1ページ以内の要旨。英語で作成する場合は「Abstract」とする
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科(修士課程のWebページ) 日本語または英語 日本語:約24,000字。英語:約8,500語(タイトル・目次・参考文献・スペースは数えない) A4で2ページ以内の要旨:日本語約3,500字、または英語約1,400語
長崎大学大学院経済学研究科(学位論文(課題レポート)作成要領) 日本語または英語 日本語:20,000字以上。英語:6,000語以上(表紙・目次・要旨を除く) 要約は日本語2,000字以内、英語1,200語以内
同志社大学大学院文学研究科 英文学・英語学専攻(修士論文提出要領、2026年4月) 英語 A4で15,000〜24,000語(表紙・目次・付録・参考文献を除く) 1,000字以内の日本語の梗概が必要
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科(修士論文のまとめ方、2025.3 ver.) 日本語または英語 分量の指定なし 日本語の論文:和文・英文の要旨。英語の論文:英文要旨(和文要旨は任意)

【2026年10月1日時点の注記】上の表は、本記事の執筆時点(2026年10月1日)に各研究科が公開していた資料から引用したものです。規定は年度ごとに改訂されることがあり、同じ大学でも研究科・専攻・コースによって異なります。実際の要件は、必ずご自身の研究科・専攻の最新の規定で確認してください。

この表から、実務上のポイントが3つ見えてきます。

  • 「英語も可」が「英語必須」の場合もある。同志社大学の英文学・英語学専攻では論文を英語で書き、神戸大学経済学研究科ではKIMAPコースに英語での作成が求められています。研究科の規定に加えて、コース独自のルールがないか確認してください。
  • 分量に数える範囲が違う。早稲田大学アジア太平洋研究科はタイトル・目次・参考文献・スペースを、同志社大学は表紙・目次・付録・参考文献を除外し、神戸大学はページ数で数えて表紙・要旨・目次を含めません。ご自身の規定と同じ数え方をしてください。
  • 英語の論文でも日本語が必要な場合がある。同志社大学では英語の論文でも日本語の梗概が必要で、慶應SFCでは任意です。必要な場合は、和文要旨の作成もスケジュールに組み込みましょう。

作成要領にこれらの記載がない場合は、提出月になってからではなく、書き始める前に指導教員に確認してください。審査日程から逆算したスケジュールの立て方は学位論文の英文校正はいつから?審査スケジュール逆算ガイドで、要旨そのものの書き方は学位論文の英文要旨の書き方で解説しています。

2. 分量:日本語の字数は英語の語数に一定の比率では換算できない

「研究科の規定は日本語で20,000字。英語なら何語になるのか」という疑問はよくあるものです。正直な答えは「ご自身の研究科の規定どおり」です。研究科によって換算の仕方が異なるからです。

実例:3つの研究科の規定に含まれる換算比

第1節の表のうち3つの研究科は、日本語と英語の両方について分量を定めています。日本語の字数を英語の語数で割ると、各研究科が暗に用いている換算比がわかります。語数ではなくページ数で定めている神戸大学については、規定にある1ページあたりの数値(1ページ1,000〜1,200字または520〜550語、18ページ)を用いたため、1つの値ではなく幅で示しています。

# 各研究科が公開している作成要領から分量規定を転記(2026年10月1日確認)
rules <- data.frame(
  school = c("Kobe Econ. (18 pages)", "Waseda GSAPS", "Nagasaki Econ."),
  ja_lo  = c(18 * 1000, 24000, 20000),  ja_hi = c(18 * 1200, 24000, 20000),  # 日本語の字数
  en_lo  = c(18 * 520,  8500,  6000),   en_hi = c(18 * 550,  8500,  6000)    # 英語の語数
)
rules$ratio_low  <- rules$ja_lo / rules$en_hi
rules$ratio_mid  <- ((rules$ja_lo + rules$ja_hi) / 2) / ((rules$en_lo + rules$en_hi) / 2)
rules$ratio_high <- rules$ja_hi / rules$en_lo
round(rules[, c("ratio_low", "ratio_mid", "ratio_high")], 2)

Rの出力:

  ratio_low ratio_mid ratio_high
1      1.82      2.06       2.31
2      2.82      2.82       2.82
3      3.33      3.33       3.33

つまり、各研究科の規定に従うと次のようになります。

  • 神戸大学 経済学研究科:英語1語あたり日本語約2.1字(1ページあたりの数値から計算すると1.8〜2.3の幅)
  • 早稲田大学 アジア太平洋研究科:約2.8(24,000字 ↔ 8,500語)
  • 長崎大学 経済学研究科:約3.3(20,000字 ↔ 6,000語)

要旨の規定でも同じことが言えます。長崎大学の2,000字 ↔ 1,200語は英語1語あたり約1.7字、早稲田大学の3,500字 ↔ 1,400語は2.5字です。

3つの研究科の修士論文分量規定から算出した「日本語字数÷英語語数」。神戸大学大学院経済学研究科は約2.1(範囲1.8〜2.3)、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科は約2.8、長崎大学大学院経済学研究科は約3.3
図1. 英語1語は日本語何字に相当するか。各研究科の分量規定が暗に示す換算比は異なる(神戸大学 経済学研究科 約2.1、早稲田大学 アジア太平洋研究科 約2.8、長崎大学 経済学研究科 約3.3)(データ:各研究科が公開している修士論文の作成要領、2026年10月1日確認)© editverse.com

図の読み方:日本語20,000字という要件は、長崎大学の換算では英語約6,000語ですが、神戸大学の換算では10,000語近くに相当します。他の研究科の換算比を借りずに、ご自身の規定にある英語の数値を確認し、英文そのものの語数を数えてください。

実際の進め方

  1. ご自身の作成要領で英語の数値を確認する。日本語の数値しか書かれていない場合は、英語でどの程度に相当するかを指導教員に確認し、他の研究科の換算比を当てはめないでください。
  2. 換算せず、英語で数える。最終的な英文についてワープロソフトの語数カウントを使い、規定が除外しているもの(参考文献、付録、図表のキャプションなど)を同じように除外して数えます。
  3. 「以上」は目標ではなく下限。「6,000語以上」(長崎大学)と「約8,500語」(早稲田大学アジア太平洋研究科)は性質の異なる規定です。分量は、研究として報告すべき内容から決まるものです。
  4. ページ数で定める規定に注意する。ページ数で分量を定める規定(神戸大学)では、指定されたフォント・サイズ・余白・行間も分量の規定の一部です。神戸大学は英語の場合、Times系10〜12ポイント、余白約30mm、シングルスペースを指定しています。

3. 英語で書く修士論文の一般的な構成

章立ては一般に、学生と指導教員に任されています(たとえば慶應SFCは章立ての例を示しつつ、章の名称・順序・分け方は自由としています)。その範囲内で、実証系の分野で英語で書かれる学位論文の多くは「伝統的形式(traditional format)」と呼ばれる構成、すなわち前付け(front matter)、本体の章、後付け(back matter)に従います。看護教育の文献では、伝統的形式の学位論文の本体を4〜5章と説明し、導入の章・出版可能な原稿として書かれた2本以上の論文・結論からなる「論文形式(paper format)」の学位論文と対比しています(Morris & Tipples, 1998)[文献4]。

前付け(Front matter)

部分 役割 規定で確認すること
表紙(Title page) タイトル、氏名、課程、指導教員、日付 多くの研究科が様式を指定している(神戸大学・慶應SFC・同志社大学は見本を提供)
要旨(Abstract。必要な場合は和文要旨も) 論文全体を、審査委員と図書館の書誌記録のために要約する 字数・語数の上限と言語、和文要旨が必要かどうか
謝辞(Acknowledgements) 指導教員、研究資金の提供者、研究参加者などへの謝意。英文校正の支援もここで記載するのが一般的 英語の論文では一般に前付けに置くが、日本語の論文では謝辞を末尾に置くことが多い(たとえば慶應SFCの章立て例では、謝辞は最終章の後、参考文献の前)。所属研究科のテンプレートに従う
目次、図表一覧 長い文書を読み進めるための案内 慶應SFCでは目次は任意、神戸大学では必須

本体(実証研究の学位論文でよく見られる章立ての一例)

章 英語の学位論文でのその章の役割
1. Introduction(序論) 背景、研究のギャップ、研究課題または目的、続く各章の簡単な見取り図
2. Literature review(先行研究) 研究課題を軸に整理した、先行研究の批判的な統合。要約の羅列ではない
3. Methods(方法) 審査委員が、行ったことを評価でき、原理的には再現できるだけの詳細
4. Results(結果) 研究課題の順に、図表を用いて示す発見
5. Discussion(考察) 結果の意味、先行研究との関係、研究の限界
6. Conclusion(結論) 研究課題への答え、研究の貢献、今後の課題

人文学や一部の社会科学の論文は、この型ではなく議論の流れに沿って構成されます(たとえば同志社大学の目次見本は、Introduction、Chapter 1〜3、Conclusion、Works Citedというシンプルなものです)。分野と指導教員が求める構成を使ってください。「各章の役割は1つ。序論でその役割を読者に示す」という原則は、どちらの場合にも当てはまります。

後付け(Back matter)

参考文献(課程が指定するスタイルで書きます。たとえば同志社大学の英文学・英語学専攻では、文学はMLA、言語学はAPAを用います)と、付録(質問紙、コード、追加の表など)です。

モノグラフ型か、論文ベースか

第1節の5つの規定はいずれも、個別の論文で構成する学位論文には触れていませんが、原稿(論文)を軸に学位論文を構成することを認めたり推奨したりする課程もあります。その形式を選べる場合は、校正や一貫性の確保で注意すべき点が変わります。博士論文の場合については課程博士・論文博士とは|学位論文の英文校正の注意点で解説しています。

4. 英語の学位論文は日本語の論文と何が違うか(言語以外の違い)

一文ずつ訳すだけでは十分ではありません。英語版は、日本語の論文とは期待するものが異なる審査委員に、そして後にはジャーナルの編集者に読まれるからです。以下は、私たちが学位論文の提出準備をお手伝いする中で見てきた実務上の違いです。指導教員の方針がある場合は、そちらを優先してください。

4.1 言語によって形式のルールが変わる

同じ研究科でも、言語ごとに異なる書式ルールを適用することがあります。神戸大学は、日本語では明朝系フォントと38字×30行を、英語ではTimes系フォント・余白30mm・シングルスペースを指定しています。早稲田大学アジア太平洋研究科は、日本語ではMS明朝11ポイント、英語ではTimes New Roman 12ポイントを指定しています。要旨も名称や分量が変わることがあります(神戸大学:英語では「Abstract」、長崎大学:日本語2,000字に対して英語1,200語)。

4.2 結論を先に書く

英語の学術文章の読者は、章・節・段落の主張がその冒頭近くにあることを期待します。主張を述べるトピックセンテンス(topic sentence)を置き、その後に根拠を続ける書き方です。背景を積み上げて段落の最後の一文でようやく要点に至る下書きでは、英語で読む審査委員には各段落の目的が見えにくくなるかもしれません。手軽なセルフチェックは、章のすべての段落の最初の一文だけを読むことです。その並びで章の筋が伝われば、構成は機能しています。冗長さの減らし方は簡潔な学術文章で冗長さを避け明確さを高める方法も参考にしてください。

4.3 道しるべを明示する

英語の学位論文では、明示的な道しるべ(signposting)を使います。序論の最後に章の見取り図(「Chapter 2 reviews…, Chapter 3 describes…」)を置き、各章は冒頭で目的を述べ、最後に次の章へつなげます。日本語に慣れた書き手には繰り返しに感じられるかもしれませんが、10,000語を超える文書では、これがあるからこそ審査委員が議論を追えます。

4.4 用語を固定する

同じ概念に異なる英語(「participants」「subjects」「respondents」など)を使うと、読者は別のグループなのかと迷います。書き始めに主要な用語の短い用語集を作り、1つの概念には最後まで1つの英語を使いましょう。章を数か月の間隔を空けて書くことが多い学位論文では、論文1本よりもこの点が重要になります。

4.5 セクションごとの時制と態

英語の学位論文は通常、研究論文と同じ時制の慣例に従います(たとえば、自分が行ったことと得た結果は過去形、確立された知識や図が示す内容は現在形)。詳しくは研究論文における時制:セクション別ガイドと学術文章における能動態と受動態で解説しています。

4.6 引用スタイルの切り替えも必要

ご自身の分野の日本語の論文が、課程の求める英語の引用スタイルとは別のスタイルを使っていることがあります。最終校正の前に参考文献リスト全体を1つのスタイルに統一し、本文中のすべての引用がリストの項目と対応しているか確認してください。スタイルごとの書き方は論文の参考文献・引用の書き方(APA・Vancouver・AMA)をご覧ください。

5. 英語で書くべきか、書くなら英語で直接書くか翻訳するか

まず:そもそも英語で書くべきか

研究科が言語の選択を認めている場合は、書き始める前に次の点を指導教員と話し合っておきましょう。唯一の正解はなく、英語を選ぶ学生の割合を示す信頼できる全国的な数字もありません。

  • 研究成果を次にどこへ出すか。国際誌への投稿や、英語が重要な博士課程・職への応募を考えているなら、英語で書いた学位論文は、英文の原稿とそれを書き上げる経験の両方をもたらします。テーマの主な読者が日本語の読者(たとえば国内学会誌)であれば、日本語のほうが研究に合っているかもしれません。
  • 誰が読み、審査するか。指導教員と審査委員が英語の論文を無理なく評価できる必要があります。早めに確認しましょう。
  • 追加の時間は現実的か。第二言語で書くには時間がかかります(後述の研究を参照)。提出日が決まっている学位論文で、そのことに最後の1か月で気づくのは避けたいところです。
  • そもそも英語が必須ではないか。コースによっては選択の余地がありません(第1節)。

次に:英語で直接書くか、日本語で書いて翻訳するか

研究科が最終的な論文を英語で提出することを認めていれば、どちらの方法も正当です。大切なのは、内容・分析・結論がご自身のものであり、英文がどのように作られたかを指導教員が知っていることです。

方法 向いている場合 注意点
英語で直接書き、英文校正を受ける 自分の分野の論文を普段から英語で読み書きしている。指導教員が英語の下書きにコメントする 時間に余裕を持つ。第二言語での執筆は、特に研究キャリアの初期には時間がかかる(後述)
日本語で書き、翻訳してから校正を受ける 日本語のほうが考えを明確にできる。指導教員がまず日本語で内容を確認する 翻訳の前に内容を確定させる(内容を変えた後の再翻訳は負担が大きい)。英語の分量は日本語ではなく英語の規定で確認する(第2節)。日本語原稿からの翻訳には論文翻訳(日英)もご利用いただけます
混合型:メモは日本語、執筆は章ごとに英語 長い論文で、一部の章(方法など)は英語のほうが書きやすい場合 章の間で用語がぶれやすい。4.4の用語集を使う

自分で翻訳する場合のコツや翻訳サービスの選び方は、学術論文の英語翻訳|翻訳サービスの選び方と自己翻訳のコツで解説しています。

英語で書く方法は、思った以上に時間がかかると考えておきましょう。Amanoらは、8か国籍の環境科学の研究者908人(日本人回答者294人を含む)を対象とした調査で、英語の論文を1本しか発表したことのない研究者のうち、英語熟達度の低い国籍グループ(この研究では日本を含む)の研究者は、英語で論文を書くのに英語母語話者より中央値で29.8%多くの時間がかかったと報告しています。同じ研究では、日本人回答者は専門の英文校正サービスを利用する傾向があったことも報告されています(Amano et al., 2023)[文献1]。最終月になって気づくのではなく、この追加の時間を最初から学位論文のスケジュールに組み込んでください。

6. 出版を見据えて書く:学位論文の章からジャーナル論文へ

英語で書いた修士論文は、ジャーナル論文の有力な出発点になりますが、そのままではまだ論文ではありません。クロアチアの保健科学分野の学士論文・修士論文9,861本(うち修士論文1,882本)を対象とした後ろ向き研究では、学位論文をもとに学術誌に掲載された論文は276本で、分析した全学位論文に対して2.8%にとどまりました(Kraljic et al., 2025)[文献2]。また、学位論文をジャーナル論文にすることに関する文献のレビューは、学生はこの作業が予想以上に難しいと覚悟しておくべきだと結論づけています(Ahern, 2012)[文献3]。これらは他の国・分野の知見なので、日本についての予測ではなく、注意喚起として受け止めてください。

英語の修士論文の章立て(表紙、Abstract+和文要旨、目次、序論、先行研究、方法、結果、考察、結論、参考文献、付録)とジャーナル論文(IMRaD)の対応図。序論と先行研究は1つのIntroductionに凝縮、考察と結論は1つのDiscussionにまとめ、目次は論文にはなく、付録は補足資料へ移る
図2. 修士論文の各章は、ジャーナル論文(IMRaD)のどこへ行くか。序論と先行研究は1つの序論に凝縮し、方法は再現に必要な情報に絞り、結果は主要な結果を残して残りは補足資料へ、考察と結論は1つにまとめ、目次はなくなる(数値を含まない構造図。章立ては分野・研究科により異なる一例)© editverse.com

図の読み方:ジャーナル論文は、学位論文を短くしたものではありません。2つの章が1つのセクションになり、審査委員に力量を示すための内容の多くは補足資料(supplementary material)に移るか、削られます。補足資料の活かし方は論文補足資料(Supplementary Materials)活用戦略をご覧ください。

学位論文を書いている段階で次の3つを習慣にすると、論文化の作業が楽になります。

  1. 結果の章を、少数の中心的な図表を軸に書く。論文はその図表をもとに組み立てることになります。
  2. 先行研究の章を、研究課題に沿って構成する。研究課題を軸に整理したレビューは論文の序論に凝縮できますが、時系列に並べた要約の羅列ではそうはいきません。
  3. 方法の詳細をきちんと記録しておく。論文では大半を補足資料に移すことになっても、ジャーナルはそれらを参照できるようにすることを求める傾向が強まっており、研究デザインごとの報告ガイドライン(EQUATORネットワークで探せます)もそれらの記載を求めます。

学位論文を論文化する際の著者資格と謝辞は、ジャーナルのルールに従います。ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会)の推奨では、「writing assistance, technical editing, language editing, and proofreading」(執筆の補助、技術的な編集、言語面の編集、校正)はそれだけでは著者資格の根拠にならず、こうした貢献者は、貢献内容を明記したうえで謝辞に記載できるとされています。詳しくは著者資格の基準|ICMJEの4つのルールを完全解説をご覧ください。

7. 正当な支援と、ご自身が担うべきこと

修士論文は、研究を行い報告するご自身の能力を示すものとして評価されます。私たちが守っている線引きは次のとおりです。

  • 正当な支援:ご自身が書いた文章の英文校正、ご自身が書いた文章の翻訳、用語・時制・書式の一貫性の確認、本文中の引用と参考文献リストの照合、作成要領に合わせた書式の調整。
  • ご自身(と指導教員)が担うこと:研究課題、研究デザイン、分析上の判断、解釈、結論。これらを編集者が代わりに書くべきではなく、私たちも書きません。
  • 透明性を保つ:英文校正や翻訳を利用していることを指導教員に伝え、校正済みの原稿は変更履歴付きで共有し、外部の支援やAIツールの利用について研究科に規定があれば従ってください。具体的な方法は指導教員・審査委員への英文校正済み原稿の出し方と学術論文執筆におけるAI活用:リスク、ルール、開示義務で解説しています。

学位論文英文校正(¥49,800〜):英語で書いた修士論文・博士論文に

英語で書いた修士論文・博士論文を、1つの文書として通して校正します。文法・文体の修正、章をまたいだ用語と時制の統一、章ごとのフィードバックを行い、指導教員とそのまま共有できる変更履歴付きのWordファイルで納品します。審査に向けた修正稿の再校正にも対応します。序論のみ・考察のみといった章単位のご依頼も可能で、大学院生の方には割引料金を適用しています(お見積もり時にお申し出ください)。納期の目安は50,000語まで7〜10営業日です。

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日本語で書いた論文を英語にする必要がある場合は、論文翻訳(日英)(¥29,800〜)で、日英翻訳の後にネイティブが学術英語として確認します。

修士論文・博士論文のサポート全体は学位論文・修士博士論文サポートをご覧ください。

まとめ

  • 修士論文は英語で「master’s thesis」です(慶應SFCと同志社大学の英語テンプレートもこの表現)。アメリカ英語では「dissertation」は通常、博士論文を指します。
  • 修士論文を英語で書いてよいか(または書かなければならないか)、どれだけの分量が必要かは、研究科が定めます。まずご自身の作成要領を読みましょう。
  • 日本語の字数は英語の語数に一定の比率では換算できません。3つの研究科の規定が示す換算比は、英語1語あたり約2.1字、2.8字、3.3字です。規定にある英語の数値を使い、英文そのものの語数を数えてください。
  • 英語の学位論文は一般に、前付け、役割が1つずつの章からなる本体(Introduction、Literature review、Methods、Results、Discussion、Conclusionが多い)、後付けで構成されます。人文学の論文は議論の流れに沿って構成されることが多くあります。
  • 翻訳だけでなく、結論を先に書くこと、道しるべの明示、用語の固定、時制と引用スタイルの統一が、英語で読む審査委員から期待されます。
  • 研究キャリアの初期にある非母語話者にとって、英語での執筆には時間がかかります。あらかじめ計画に入れましょう。将来論文化するなら、結果を少数の中心的な図表を軸にまとめ、先行研究の章を研究課題に沿って構成しておくことが役立ちます。

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よくある質問

Q. 修士論文は英語で何と言いますか?

「master’s thesis」です。日本の大学院自身の英語テンプレートでも使われています(慶應SFC:「Master’s Thesis」、同志社大学:「A Thesis Submitted … for the Degree of Master of Arts」)。アメリカ英語では「dissertation」は通常、博士論文を指しますが、イギリス英語では授業型修士課程の論文を「dissertation」と呼ぶことが多くあります。ご自身の研究科のテンプレートに合わせてください。

Q. 日本の大学院で、修士論文を英語で書くことはできますか?

多くの研究科で可能ですが、研究科ごと(ときにはコースごと)に決まっています。神戸大学経済学研究科、早稲田大学アジア太平洋研究科、長崎大学経済学研究科、慶應SFCはいずれも日本語・英語のどちらでも認めており、英語での作成を求める課程もあります(神戸大学のKIMAPコース、同志社大学の英文学・英語学専攻)。ご自身の作成要領を確認し、指導教員に相談してください。

Q. 英語の修士論文は何語必要ですか?日本語の字数はどう換算しますか?

ご自身の研究科の規定によります。公開されている規定の例は、6,000語以上(長崎大学経済学研究科)、約8,500語(早稲田大学アジア太平洋研究科)、1ページ約520〜550語のシングルスペースで18ページ以上(神戸大学経済学研究科)、15,000〜24,000語(同志社大学英文学・英語学専攻)です。それぞれの規定が何を除外しているか(参考文献、付録、表紙、目次など)にも注意してください。日本語の字数からの固定の換算比はなく、確認した3つの研究科の規定は英語1語あたり約2.1字、2.8字、3.3字に相当します。ご自身の研究科が示す英語の数値を使うか、指導教員に確認してください。

Q. 英語で書く場合でも、日本語の要旨は必要ですか?

必要な場合があります。同志社大学の英文学・英語学専攻では英語の論文に1,000字以内の日本語の梗概が必要で、慶應SFCでは英語の論文の和文要旨は任意です。学位論文の要旨そのものの書き方は、学位論文の英文要旨の書き方で解説しています。

Q. 修士論文に英文校正や翻訳を利用してもよいのですか?

ご自身が書いた文章の英文校正や翻訳は一般に支援として扱われますが、研究・分析・結論はご自身のものでなければならず、研究科の規定が優先します。指導教員に伝え、変更履歴を共有し、課程が求める場合は謝辞に支援を記載してください。

参考資料

  1. Amano T, Ramírez-Castañeda V, Berdejo-Espinola V, Borokini I, Chowdhury S, Golivets M, González-Trujillo JD, Montaño-Centellas F, Paudel K, White RL, Veríssimo D. The manifold costs of being a non-native English speaker in science. PLoS Biol. 2023;21(7):e3002184. doi: 10.1371/journal.pbio.3002184. PMID: 37463136.(本文の数値はPMC全文 PMC10353817 による)
  2. Kraljic K, Mijoc V, Cargo M, et al. Publication outcomes and research trends in bachelor’s and master’s theses in health sciences in Croatia: retrospective cohort study and survey of mentors. PLoS One. 2025;20(11):e0335350. doi: 10.1371/journal.pone.0335350. PMID: 41183060.
  3. Ahern K. How to create a journal article from a thesis. Nurse Res. 2012;19(4):21-5. doi: 10.7748/nr2012.07.19.4.21.c9220. PMID: 22866554.
  4. Morris HM, Tipples G. Choosing to write the paper format thesis. J Nurs Educ. 1998;37(4):173-5. doi: 10.3928/0148-4834-19980401-08. PMID: 9570417.
  5. Duke T. How to do a postgraduate research project and write a minor thesis. Arch Dis Child. 2018;103(9):820-827. doi: 10.1136/archdischild-2018-315340. PMID: 29804055.(参考:修士レベルの研究と学位論文執筆の実践ガイド。語数・行間・引用形式の要件は機関によって異なると指摘)

大学の規定(一次資料、2026年10月1日閲覧)

  • 神戸大学大学院経済学研究科「2026年度9月修了予定者用 修士論文の作成要領」:PDF
  • 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科「修士課程」(修士論文の作成要領・要旨):Webページ
  • 長崎大学大学院経済学研究科「学位論文(課題レポート)作成要領」:PDF
  • 同志社大学大学院文学研究科 英文学・英語学専攻「修士論文提出要領」(2026年4月、3月修了者向け):PDF
  • 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科「修士論文のまとめ方」(2025.3 ver.):PDF

機関・団体の資料

修士論文の言語・分量・要旨の要件は研究科・専攻ごとに定められ、年度により改訂されます。本記事の例は2026年10月1日時点で各研究科が公開している資料に基づくもので、正式な要件は必ずご自身の研究科の最新の作成要領でご確認ください。

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